とっつあんを偲んで

大学時代の友人であるK氏が亡くなられたとの知らせを受けた。
そこまで懇意ではなかったが、入学当初はよく誘ってもらって遊んだり、飲んだりした。
20代前半なのにおっさん感が半端ではなかった。
最初にあった時には自分より10歳以上年上だと思った。
自然と”とっつあん”と呼ばれるようになっていた。

1回生の6月頃だったようなに思います。
夜の9時頃、学生寮でボーッとしていたら、とっつあんとK氏(この頃、とっつあんとよくつるんでいました)が突然やってきた。
とっつあんが「わし、免許とったんや。レンタカーを借りたからドライブ行こ」と言い出した。
こんな新米ドライバーの運転で深夜のドライブなんて命懸けやん。
まだ死にたくないからごめんや、と断っているのに半ば拉致されるような格好で気が付いたら車に乗っていた。
K氏も一人では心細いからとわたしを誘ったんだろうと推測できる。

本人曰く「夜の運転は初めてや」
おいおい、ほんまに大丈夫か。
とっつあんは当然運転席、K氏が助手席、わたしは後部座席に座った。
しばらく走ってからK氏が「なんか暗くない」と言い出した。
よーく見たら前方が暗い。
ヘッドライトがついてないやん。
本人曰く「教習所では教えてくれんかった」
どんな教習所やねん。

どこへ行くという目的地もなく、ただただ交通量の少ない国道を走るのみ。
とっつあんも運転に慣れてきたのか、運転に余裕が出来だした。
それでも生きた心地はしなかった。
調子に乗って住宅街へ入り込んだ。
入ったはいいものの、袋小路に入り込んだ。
「わし、バックは下手や」と偉そうに言い出す。
仕方無くK氏と2人で誘導するが、本人が自慢するだけあってバンパーを何度か壁こすっていた。
30分ほどかかってなんとか抜け出せた。バンパーに傷は残りましたが。

とっつあんが疲れたというので国道沿いのファミレスに入った。
こっちの方が疲れたわ。
ファミレスでコーヒーを飲むが、まだこれから帰りの道があると思うとほとんど味がしなかった。
ファミレスを出てしばらく走っていると、K氏が「なんか、臭くないか」と言い出した。
そういえば、なんか焦げ臭い。
なんの臭いかと探ったら
おいおい、サイドブレーキを引いたままで走ってるんやん。
本人曰く「なんか、スピードが遅いと思ってた」
あんたの運転には参った。

結局、学生寮に帰ってきたのは零時過ぎだった。
とっつあんの車には二度と乗るまいと心に誓った。

そんなとっつあんのご冥福をお祈りします。合掌